糖尿病足病変予防戦略研究所

はじめに

 糖尿病足病変は難治性であり進行すれば下肢の切断に至る重大な合併症です。世界で糖尿病が増加しており、今後は特に中国・インド・東南アジアにおいて爆発的に増加(パンデミック)するとも予想されています。糖尿病足病変についてはこれまで多くの報告や研究が欧米からなされていますが、欧米人とアジア人では糖尿病の病態が異なり、さらには生活習慣や文化が異なるため、アジア人独自の糖尿病足病変の特徴に対応した新たな研究が必要です。

 今後アジアにおける糖尿病足病変の指導的立場として、本邦における糖尿病性足病変・足潰瘍の病態を把握し、切断への進行を阻止して歩行を維持するための治療戦略の構築すること、そして発症を未然に防ぐ予防治療を確立することは我々の急務なのです。

研究計画

 本研究所は現在5つのテーマを軸として研究を進めています。

  • ① 糖尿病性神経障害の進行と足・歩行の変化の関連を明らかにし、糖尿病足病変の発生を予防する治療方法を確立する。

    糖尿病内科、形成外科、福祉健康科学部門、リハビリテーションが共同で、糖尿病外来を受診する患者を中心に関節可動域、足底圧、歩行の安定性、足底所見などを記録し、糖尿病の進行度と足部、歩行の変化の相関を検討する。

  • ② 糖尿病足病変に対する予防的足外科手術の有効性を検証する

    糖尿病足病変の積極的予防戦略として生体力学(バイオメカニクス)の観点から足の変形を修正し歩行機能を維持する予防的足外科手術を推進し、足底圧や歩行の安定性などのデータからその有効性を検証する。

  • ③ 糖尿病足病変の発生を有効に予防する靴の開発を行う。

    足部CTモデルと足底圧データから三次元的側圧分布の予測を工学部と共同で行う。 作成されたモデルから様々な形状、素材での足圧分散をシミュレーションし、靴メーカーと共に靴の開発を行う。

  • ④ 足の切断に至る原因となる急性感染を簡便かつ早期に診断する診断方式を確立する

    糖尿病内科と形成外科が共同で、感染から外科手術に至った患者の持続血糖測定を行い、糖尿病の重症度や全身の血糖値の変動との相関、局所血糖値による感染予測の可能性を検討する。

  • ⑤ 糖尿病足病変の原因となる神経障害自体を改善させる治療の可能性について検証する。

    糖尿病内科と形成外科が共同で、糖尿病性神経障害と診断されている中での足根管症候群との合併症例の頻度についての疫学的調査を行い、さらにその治療ストラテジーを確立する。

 これらの先進的な予防戦略を開発するためには、診療とともに多くの診療データ収集や検証が必須であり、複数の専門家による共同研究体制の形成が必要です。本研究所は創傷外科医である形成外科医、糖尿病を全身としてとらえる糖尿病内科医、動作解析を行う福祉健康科学部門、予防のための靴を開発する理工学部、その他理学療法士や靴メーカー、義肢装具士などの専門家たちが共同で糖尿病足病変を見直し、その発生を予防する新しいストラテジーを確立するために設立されました。それぞれ異なった専門分野を持つ研究員が横断的に連携することで新たな研究のイノベーションが期待されます。

 それぞれについて既に科学研究費補助金や研究助成金を取得もしくは申請中でプロトコルに従って3年を目途に研究を行っています。また新たな研究テーマについての委託研究、共同研究についても随時受け付けており、提案があれば柔軟に対応していきます。

さいごに

 糖尿病足病変に苦しむ患者は多く、長い治療期間と多額の医療コストが必要です。本研究所の目的は今後さらに増加する重症糖尿病患者の足病変の進行を防ぎ、QOLの著しい低下を防ぐ積極的予防戦略を開発することです。本研究所の研究により将来的にかかる莫大な医療コストを抑制することが期待されます。

メンバー

所長 医学部 形成外科 上村 哲司
研究員 石原 康裕
楊井 哲
安田 聖人
糖尿病内科 安西 慶三
福祉健康科学部門 松尾 清美
地域医療支援学講座 杉岡 隆
工学部 萩原世也
客員研究員 上口茂徳(日本フットケアサービス株式会社義肢装具士)
川﨑東太(国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科)
竹之下博正(唐津赤十字病院内科)
丸山倫司(九州中央リハビリテーション学院理学療法学科)
菊池守(下北沢病院)

これまで獲得している競争的研究資金

  • ・平成25年~27年度 研究代表者 菊池 守

    科学研究費補助金(若手研究(B))課題番号25861686
    糖尿病足に対する生体力学に基づいた予防的 手術の有効性の検討

  • ・平成26年~28年度 研究代表者  上村 哲司

    科学研究費補助金(基盤研究(C))課題番号26462733
    糖尿病足病変における荷重圧分散を考慮したモジュール化した靴の開発

  • ・平成26年度 研究代表者 菊池 守

    佐賀大学研究シーズ
    糖尿病足病変予測因子としての糖尿病性神経障害スコアと下肢機能評価に関する研究

  • ・平成28年~30年度 研究代表者 菊池 守

    科学研究費補助金(基盤研究(C))
    糖尿病足病変予測因子としての糖尿病性神経障害と足部機能に関する研究

お問い合わせ先

佐賀大学医学部形成外科内
佐賀大学プロジェクト研究所 糖尿病足病変予防戦略研究所
TEL:0952-34-2460  FAX:0952-34-2084
問合せ先  形成外科  上村 哲司 uemurat@cc.saga-u.ac.jp